猫と暮らしはじめたころ、知り合いに
「男の子?女の子?」と聞かれ、
「かわいい女の子です。」と答えた。
「女の子はね、かわいいねぇっていって育てると
べっぴんさんになるんだよ」といわれ、
そのままでもうちの子は十分かわいいと
思いながらも、べっぴんさんになるなら
毎日かわいいかわいいと呪文のように
唱えてあげようと思った。

毎日のおはようの挨拶のように
「今日もかわいいねぇ。あなたは本当に
美人さんだね~。」と、八百屋のおじさんが
ご機嫌とりでおばさま方にいうセリフのごとく
言い続けた。
とくべつ意識して言うこともあったけど、
そんな決まりがなくても猫をみれば
自然にかわいいと口にしてしまうものである。

かわいいねぇと言われた猫も、言葉は分かるはずも
ないのに、まんざらでもないようにみえた。
目をうっとりさせ、ひげはピンっと張り、
「そうでしょう~」とばかりにほほえんでいる
ような表情をみせる。

かわいいという言葉はわからなくても、
いい感情や気持ちは声のトーンや話し方で
猫にも十分伝わるものである。
猫も何かいい雰囲気を感じとり、
そのいい気分が表情に現れるのだろう。
どんどん女っぷりがあがって、いい顔に
なってくる。

なるほど。これは本当だ。
それから私は鏡の中の自分に
「あんた今日もかわいいねぇ」と
言いきかせてみることにした。
いまだにかわいいとは思えないその顔に。
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