この世界には、喜んで顔を差しだしたくなるビンタがある。
確実に意志を持った、見るからにやわらかくてしなやかなものが
手招きをするようにふわっ、ふわっと私を誘う。
吸い込まれるようにして近づくと
とつぜんムチを打つかのようにスパンッと顔面めがけて振り下ろされる
ふつうなら悲鳴をあげてしまうところだが
口角はあがり、顔はニヤついている
避けるどころか、二発目をリクエストしたいぐらいだ
また違うときは、寝転んでスマホを見ている私の前にきて
当然のようにおしりを向けて座り、
ゆっくり大きく手を振るように、ふわふわのペンライトを揺らしている
ちょっとでもちょっかいをだそうものなら
クラシックやオペラの曲調でゆったりしていたはずなのに
いきなりロックやパンク調へ趣向が変わり
高速ビンタをお見舞いされる
うれしくて思わずシャウトしてしまう
私に笑顔をくれるふわふわのしっぽは、
その持ち主が意図的に操作しているようだけど
それ自体が意志をもっているようにも感じられる
今日もどちらの意志なのか、
ふわっ、ふわっと私を世界一幸せなビンタへ誘っている。

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